第5回 これからの音楽教育を考える会 レポート

2023年11月9日にオンラインで開催された「第5回 これからの音楽教育を考える会 ― 音楽教育における、子どもたちの「体験格差」を考える ―」のレポートをお届けします。

◆ これからの音楽教育を考える会 第5回
音楽教育における、子どもたちの「体験格差」を考える
開催日程:2023年11月9日(水)
会場:オンライン
主催:一般社団法人全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)Open Piano Project
ゲストスピーカー:
 高田絵梨さん(公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン 広報・ファンドレイジング部)
 入安にろさん(公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン事務局 事業部)
 倉持欣幸(ピティナ本部事務局勤務 事業統括)
ファシリテーター:川野辺雪菜(認定ファンドレイザー)
前回の企画

長年ピティナの公益事業として実施してきた学校クラスコンサートの展開から始まり、学校と民間/地域社会/音楽教育関係者との連携、学校へ行けない/行かない子どもたちと地域のピアノ教室との関わり、とテーマを発展させて、毎回熱い議論を繰り広げてきた「これからの音楽教育を考える会」も、5回目を迎えました。

今回は「音楽教育における、子どもたちの「体験格差」を考える」というテーマを掲げ、これまで「ピアノ教室へ習いに来ていた」子どもたちを相手にしてきたピアノ指導者や音楽関係者たちが、様々な理由で「通えない」子どもたちの実態について目を向け、その取り組みについて学ぶ機会としました。この呼びかけに対し、全国の支部・ステーション関係者、各地のピアノ指導者、本部事務局スタッフなど、50名弱の熱心な参加者が集いました。

第5回参加申込者分布
「学習」支援から「体験」支援へ

ゲストスピーカーを務めてくださったのは、阪神淡路大地震、東日本大震災を機として、長年子どもの「教育格差・体験格差」の解消に取り組んできた、公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(CFC)の高田絵梨さんと入安にろさん。後半は本部事務局の倉持欣幸、ファシリテーターの川野辺雪菜さんとのクロストークという形で、参加者の声も随時拾いつつ展開されました。

お話では、日本の子どもの11.5%もが相対的貧困にあたり、そうした子どもの教育機会損失は次世代の経済的貧困を招き、貧困の世代間連鎖を生み続けていること、その連鎖を打ち切るために、CFCでは経済的困難を抱える子どもたちが塾や習い事に使える「スタディクーポン」を提供する事業を展開していることなどを伺いました。さらに、スポーツ、芸術、キャンプなどの「体験」活動、中でも「音楽体験の格差」は親の所得による差が2.3倍にものぼることなどが示され、そうした「体験」に特化して2023年に立ち上げられた支援事業「ハロカル」についても紹介されました。

多様な学びと体験の重要性と、支援の課題

参加者からも「習いたい・自分に合う場所が選べるのか」「子どもたちが自分で選ぶのは難しいのではないか」「レッスンの成果として発表会に出るとなると支援額では足りなくなるのではないか」「通えない理由は経済面だけでなく、時間の余裕と情報がないこと」「クーポンを使った後どうなったのかを知りたい」「自分の地域でもあるのか」などと積極的に質問や鋭い意見、アイディアの提案などが飛び交いました。

CFC側の取り組みとして、現在2900以上の教室の登録があり、リクエストに応じて増やすことができることや、教室選択や進行状況などのアドバイスに乗るスタッフの存在など「配って終わらない」ための仕組みづくり、実際に活用した親子や教室の声などが紹介され、さらに、忙しい親に代わっての送迎や金額設定、理解ある協力団体の開拓や地域的な広がり、継続的な学び、支援する側の見えない負担が大きくならない仕組みなど、今後注力していかなければならない課題についても共有されました。

子どものうちに、多様で豊かな学びを体験することが、子ども時代を豊かにするだけでなく、大人になってからも人間としての支えとなることを知っているピアノ指導者たちや音楽教育関係者たちにとって、深く共感できる内容で、子どもたちが「習いに来られない」「続けられない」理由はどこにあるのか、自分たちに何ができるのか、についても考える機会となり、開催後のアンケートにも熱い声が多く届きました。

 
参加者の声(抜粋)
  • 私が長年感じていた「地方や都市部に関係なく、また貧富の差に関係なく、子供はどこで産まれても平等に良い教育を受けて欲しい」願いを助けてくれる活動で、今後の構想だけでなく、ピアノ教室が本来抱えている問題点(送迎、自宅練習、保護者同伴)にもしっかりと切り込んでおられたところに共感しました。
  • 私が気になっている考えを、一人ではどうにもできないところ、形にしてくださっていることが感動しました。
  • ピアノ教室が、地域のコーディネーターとして産官学 繋げていければと思います。子ども達にとっても社会にとっても有意義な関係が築けます。
  • 配るだけで終わらないために必要な「人的支援やコーディネート」、「人材ネットワーク」「ものの支援」「体験の機会の提供」「練習場所等の確保」など、クーポンを実際に活用してもらうための要素は、私たちが関われる部分が多くあるのではないかと思いました。
  • 塾など学習に関する習い事へ通うための支援に比べて、体験する習い事への支援に対して理解を得ることが難しいということが取り上げられていました。子ども達の将来のことを考えると、確かに学習が優先だと思いますが、やはり音楽に触れ、音楽を好きになることは人間にとって自然なことですし、幸せに生きていくヒントがたくさん詰まっています。ぜひ音楽を楽しんでほしいです。体験を大切だと実感してくださる方を増やしていきたいです。
  • 体験、ことに芸術分野はなかなか後回しにされがちだと思いますが、本当に大切な体験だと思っております。けれどそれは経験してきた者だから言えることなのかもしれません。だからこそ、環境の違いによらず誰しも体験し、自分自身で選択できる、ということがとても大事だと思います。 格差というのは経済的な面による影響に注目しがちでしたが、親の多忙により送迎が難しく、習い事に行かせられい、というのも納得させられました。 もし、行政を巻き込むのであれば、放課後を利用した音楽教室(学童のような)を行えば、習い事のための送迎、という面も壁が低くなるのではないかと思いました。

次回は2024年6月ごろの開催予定です。より広い視点で、そしてより具体的な視点で、民間の音楽教育関係者ができることへの議論を深めるため、様々なバックグラウンド、経験をお持ちの方のご参加を歓迎しております。皆さんで共有したい/議論したいテーマもお寄せください。

第1回レポート
第2回レポート
第3回レポート
第4回レポート

学校クラスコンサート
あなたの街でも ひらけ、ピアノ!

ピティナ会員や支部・ステーションが展開する「ピアノをもっと世の中にひらいていく」企画を公募します。地域で企画を展開している・これから展開を考えている方、その輪を繋いで「一緒にみんなで、ピアノでわくわくしたい!」という方は、ぜひ下記のフォームから企画の詳細をお知らせください。

ご申告いただいた企画の内容を個別におうかがいし、OPEN PIANO PROJECTにふさわしい企画は、ピティナで広報をお手伝いさせていただきます。