第2回 これからの音楽教育を考える会 レポート

第7弾は、10月3日(月)にオンライン(Zoom)で開催された「これからの音楽教育を考える会」第2回のレポートをお送りします。

当日の様子

◆ これからの音楽教育を考える会 Vol.2
音楽教育は、学校・地域に何ができるか?
「助成金活用による学校クラスコンサート/学校に行かない子どもたち」
開催日程:2022年10月3日(月)
会場:オンライン
主催:一般社団法人全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)Open Piano Project
ゲストスピーカー:伊賀 あゆみ先生(1997特級グランプリ)/山口 雅敏先生(ピアニスト)
ファシリテーター:川野辺雪菜(本部事務局)
テーマ:第1部「学校クラスコンサート概要」「助成金の活用について」
第2部「学校に行かない/行けない子どもたち」

2022年6月にスタートした「これからの音楽教育を考える会」の第2回が10月3日に開催されました。今回も「音楽教育に携わる者として、地域や学校に対して何ができるのか」を考えたいという想いを持つ22名の方々集まり、熱いディスカッションも繰り広げられました。

当日の写真参加者の属性(複数回答可)

第2回にあたる今回は、前回の実施後アンケートで今後のテーマとして関心が高かった2つの課題「助成金の活用」と「不登校と音楽教育」をテーマを取り上げました。

ゲストスピーカー伊賀あゆみさん&山口雅敏さんによる経験談

前半は、ピティナが学校クラスコンサートを創始した2005年度から17年もの間、通算177回もの学校を訪問してくださっているピアニストの伊賀あゆみさん(1997年特級グランプリ)と、ピアノ連弾のデュオとして一緒に参加してくださっている山口雅敏さんのお二人をゲストとして迎えました。実際に子どもたちと触れ合うアーティストの生の声として、子どもたちの反応、学校の先生方のお話、アーティストとしての自分たちの成長について貴重な体験談をお話くださいました。

ゲストスピーカーの伊賀あゆみさんと山口雅敏さん

当初は楽器について説明したこともなく、改めて勉強したり台本を作り込んだりしていました。楽器を五感で体感する前後での興味の違い、同じ曲でも学年やクラスによって感じ方が異なること、有名な曲でなくても魅力的であれば子どもたちの聴く力は思ったよりも高く思い切った選曲も可能なこと……回を重ねて気づくことがたくさんあり、徐々にその場で子どもたちの反応を見てコンサートをつくれるようになってきたと思います。

学校には、普段は音楽に集中できない・手を挙げて質問ができないといったタイプの子もいますが、そういう子たちの変化を学校の先生から伺う機会も少なくありません。私たち奏者も、聴き手とのコミュニケーションを通じて本番力が鍛えられます。何より、目をキラキラ輝かせて聴いてくれるのを肌で感じながら演奏する喜びを感じられる場です。若手アーティストたちにはぜひ、学校クラスコンサートで経験を積んでもらいたいです。

伊賀さん山口さんによる学校クラスコンサートの様子①
伊賀さんによる楽器説明の様子②
助成金の活用

学校クラスコンサートを開催した気持ちはあるけれどなかなか実施に漕ぎつけられない、という際に挙げられる課題がいくつかあります。そのうち人材面では、ピティナの組織やアーティスト、この勉強会のような横のつながりをさらに活用していくことが重要です。一方資金面では、とりわけ学校や自治体、地域が継続的な価値を見出して資金提供を行ってくれるまでのスタートアップ資金が必要、という課題が残ります。

今回は資金調達の一つの事例として、公的助成を申請するという方法をご案内し、特に伊賀さん・山口さんも福岡県など遠方での学校クラスコンサート開催に活用してきた「文化芸術による子供育成総合事業(芸術家の派遣事業) 」という文化庁の助成事業を例として、内容や申請スケジュール、地域数校をまとめた実施例などをご紹介しました。

参加者の感想より(抜粋)
  • 山口先生、伊賀先生から、子どもたちが目をキラキラさせて体験できている様子や先生方の想いを伺えて、ますます実施したいと強く思いました。若いアーティストたちにも聞いてもらいたいお話でした。
  • 何から始めていいのか、どういう形があるのか等漠然と考えるばかりでしたが、実際の具体例やゲストの先生方の実際のお話を伺えて、自分の考えが一歩前進できました。学校や教育委員会に理解、賛同してもらうために必要な資料、プレゼン内容、話の持って行き方などを具体的に知りたいと思いました。
  • 学校クラスコンサートを継続、独自に展開させていく上で運営の仕方を変化させてこられた経緯になるほどと思いました。継続させるには相当の熱意と工夫、様々な方のご協力が必要だと思うので、企画に関わる個々人が具体的なヴィジョンを持って、共有していくことが大切だと思いました。
伊賀さんによる楽器説明の様子
山口さんと児童との共演の様子
不登校と音楽教育~学校に行かない/行けない子どもたち

後半は「不登校」をテーマに、現在の不登校児童を取り巻く環境の変化、フリースクールの実情、ピアノ教室での不登校児の事例調査結果などを共有しつつ、学校でも家庭でもない第三の居場所として、また学校教育になじめない子にとっての個別最適化教育の場としてのピアノ教室という側面に焦点を当ててグループディスカッションを行い、時間が足りなくなるほど活発な意見が交換されました。

教室の生徒さんやご家族の実際の不登校の事例などから、不登校の理由や身体的・精神的な症状の様々な違い、保護者との関わり、個人の理解度や特性に合わせた指導のできるピアノ教室との親和性など、ピアノ指導者が理解を深めることによるサポートの可能性が示唆されました。一方で、学校へ行かない代わりの教育費を自己負担するためピアノ教室にまで通えない実情など、ピアノ教室に来られない子どもたちへの音楽教育的なサポートをどのようにしていくべきか、という点まで議論が膨らみました。

不登校児支援の現状(民)
ピアノ教室の「不登校の生徒」について
参加者の感想より(抜粋)
  • 不登校児に対する考えについて、当事者の親御さんよりお話を伺い、いかに自分の考えが甘かったかを知ることができ、大きな学びでした。ピアノ教室は家や学校ではない第三の居場所として有効ではないかと考えていましたが、そもそも不登校になる子どもたちは外出が困難だったり、その子自身がアクションを起こすこと自体が難しい場合があることも分かりました。
  • 引きこもる子どもを連れ出して音楽に触れてもらうのは難しいことですが、親御さんにも心からほっとできる音楽と時間を届けられるといいですね。不登校児のいる家庭は学校以外の学びや昼食など、学校に行っている子以上にお金がかかりますが、親は仕事をセーブせざるを得ないため、収支バランスが不均衡になります。自分も今後、居場所作りやフリーレッスン、フリーコンサートなどの活動をしたいと考えていますが、経済的にも精神的にもなるべく負担のない方法で音楽を楽しんだり学んだりできる方法を模索中です。
  • 後半のディスカッションで不登校のお子さんを持つ親御さんのお話を直接伺い、アウトリーチそのものの意義を改めて考えさせられました。手の届かない人へ届けるということを自分は本当に考えられていただろうか、とショックでした。そういう視点で考えたとき、このようなコンサートの場所は学校に限らず様々な可能性を探っていくべきだと思いました。

次回は2023年1月ごろの開催予定です。こうした議論の活性化から、民間の音楽教育事業者ができることの可能性を広げていくべく、引き続きたくさんの方の勉強会への参加をお待ちしております。

川野辺雪菜(認定ファンドレイザー/本部事務局)
顔写真

 この会は、「正解」を出すよりも、皆で「モヤモヤを共有する」ことでコミュニケーションを活性化することに重きを置いています。第2回は、第1回よりディスカッションの時間を多く設けましたが、それでも参加者の意見が止まらず時間が足りなくなるほどで、いかに日頃皆さんが「モヤモヤしているか」を感じる時間にもなりました。ピアノ指導者・ピアニスト・保護者、それぞれの立場から子どもたちに真摯に向き合うからこそ生じる「モヤモヤ」が、良いコミュニケーションのきっかけをもたらしていると感じています。
引き続き、参加者同士のコミュニケーションの中から生まれる疑問や問題提起を積極的に取り上げて、皆さんと一緒に「音楽が教育に提供できる価値」について考えていく過程でピアノ教室やピティナの次のアクションのヒントを発見していきたいと考えています。第3回も、たくさんの方のご参加をお待ちしております。


学校クラスコンサート
あなたの街でも ひらけ、ピアノ!

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